コリアンコミュニティー ビジョンフォーラム2025 ーコリアンの次世代とともに開く新しいつながりの場ー に行ってきました

主催/主管:在日本韓国人総連合会・世界韓人総連合会、 後援:在外同胞庁・駐日本大韓民国大使館・在日本東京韓国人連合会・在日本大韓民国民団中央本部、 協賛:NKNGO Forum



場所は早稲田大学。世界で活躍する有名な方々がいらっしゃるということで、頼み込んで参加させていただきました。

開幕宣言はフォーラム準備委員長の李相勳(イ・サンフン)在日本韓国人総連合会副会長。

そして在日本韓国人総連合会の金顕泰(キムヒョンテ)会長から歓迎のご挨拶がありました。このフォーラムの目的、開催に至った経緯、早稲田大学を会場とした理由などをお話くださいました。

最初の祝辞は李赫(イ・ヒョク)駐日大使です。
大使は以前、ベトナム大使も務めており、当時共に仕事をした人たちとここで再会できたことを「本当に嬉しい」と語りました。
若い頃には慶應義塾大学で日本語研修を行い、その後も日本勤務を重ね、今回が4度目の日本赴任とのことです。「あまりにも日本に長くいるので、公務員でありながらニューカマー在日韓国人と言えるかもしれません」と笑いながら話し、会場を和ませました。民団や在日社会との関わりも深く、民団の会員でもあり、「韓人会の名誉会員の資格もあるのでは」と親しみを込めて語りました。
また最近、「外国人留学生の学費値上げを早稲田大学が率先して始める」というニュースを聞いたと触れ、「本当でしょうか?外国人留学生が最も多い学校なのに残念です」と述べつつ、「もし学費が上がるなら、その分しっかり勉強しなければいけませんね」と学生たちに向けて励ましの言葉をかけました。
大使が最も強調したのは、「日本で成功することの大切さ」です。韓人会と民団を合わせれば約40万人以上、学生まで含めるとさらに多くの韓国ルーツの人々が日本で生活しています。「成功し、力をつけ、在日コミュニティが強くなれば、日本社会の発展にも寄与し、日本の方々から愛される存在になる」と語り、日本で生きる若い世代に大きな期待を寄せました。
さらに、「皆さんの中には、生涯日本で暮らす人も出てくるでしょう」と述べたうえで、「努力を惜しまず、堂々と、礼儀正しく、日本人以上にマナーを守り、法律をよく守る姿勢を大切にしてほしい」と呼びかけました。「こうした姿勢こそが、日本社会における韓国人のイメージを形づくっていく」と語り、最後には「年を取ったせいか小言が多くなりましたね。すみません」と照れ笑いを浮かべ、会場は温かい拍手に包まれました。
次の祝辞は、在日本大韓民国民団中央本部の金利中(キム・イジュン)団長です。団長はまず、「ここで私が一番韓国語が下手かもしれません。日本で生まれましたので」と会場を和ませながら自己紹介しました。民団は1946年に発足し、来年で80周年を迎える長い歴史を持ちますが、その歴史の中で常に大きな課題となってきたのが“次世代”の問題だといいます。
毎年、新宿・大久保ではヘイトスピーチ問題が起こり、在日社会が直面する厳しい現実が浮き彫りになります。そうした状況の中で、民団は若い世代が自信を持って外に出ていけるような環境づくりを重視し、様々な取り組みを進めてきました。昨年11月には若者100名を韓国へ連れていくプログラムを実施し、大好評を得ました。その後、かつてオリニジャンボリーに参加していた女の子がアシアナ航空に就職したという嬉しい知らせが届いたり、青年会の若者を「ぜひ私の会社に」と企業から相談されることもあるといいます。
団長はまた、「若い人たちのために何ができるのか、いつも方法を考えている」という日韓親善協会の会長とも思いを同じくしていると述べました。そして、「私の願いは、若い人たちが世界へ飛び出し、いろいろな人に出会い、韓国人としての存在感を示すこと。若い人たちには、自分のために努力してほしい」と、未来を担う世代へ力強い期待とエールを送りました。
そして最後の祝辞は朴相俊(パク・サンジュン)早稲田大学国際教養学部教授です。朴教授はごく簡単に、今日は若い人たちがたくさん来てくれて嬉しい、みんな日本で一生懸命働いてほしい、今日は最後まで残って、昼食会にも参加して欲しいと述べました。
そしていよいよ記念講演です。
まずは、世界韓人会総連合会のコ・サング会長による「グローバルコリアンネットワークと次世代の役割」です。コ・サング会長は現在ベトナムを中心に約150店舗を運営する韓国食品流通チェーン「K-Market(Kマート)」のオーナーです。

コ・サング会長は講演で「人生における最も美しい事業は奉仕だ」と述べ、韓国移民の歴史と在外同胞の重要性を強調しました。韓国人の海外移住はハワイのサトウキビ畑から始まり、続いてカリフォルニアのオレンジ畑でも、多くの移民が自らの生活が苦しい中で収入の一部を独立運動のために送金していました。「オレンジひとつ収穫するにも心を込めて収穫した」という誠実さと献身が「韓国人は信用できる」という国際的な評価を築き、現在の韓国ブランドの基盤になったと説明しました。
一方で韓国国内には「自分たちも大変なのに、なぜ海外同胞に予算を使うのか」という声もありますが、コ・サング会長は、それは大きな誤解だと指摘しました。日本、アメリカ、ヨーロッパの同胞が長年にわたり韓国へ送金してきた規模は非常に大きく、特にIMF危機時に在日同胞が果たした役割は十分に報道されていないと述べ、海外同胞の貢献はもっと正当に評価されるべきだと語りました。
朝鮮半島の統一問題についても触れ、「世界の同胞が一つにならなければ統一は実現しません」と強調しました。統一には周辺国の協力が不可欠であり、その橋渡し役となるのが海外同胞コミュニティであるとし、民団への感謝を述べつつ「ニューカマーとオールドカマーが協力しなければなりません」と呼びかけました。
さらに講演では、次世代育成の課題が大きなテーマとして取り上げられました。「奉仕を重んじるのは私たちの世代であり、若者に奉仕を強要すれば参加しなくなってしまいます」と述べ、現状では世界韓人会の主要事業であるはずの次世代育成にも若い世代の参加が少ないと指摘しました。そのうえで、若者が興味を持つプログラムづくりやスタートアップの機会提供、メンタリング、そして「会いたい人に会えるネットワーク」を構築する必要があると提案しました。
最後に、「海外同胞には想像以上の大きなネットワーク資産があります。これを次世代が受け継ぎ、未来へつなげていかなければなりません」と述べ、在外韓国人コミュニティの団結と継承の重要性を強調して締めくくりました。
次は、「グローバルK-POPのためのHYBEの革新」と題して、HYBE傘下のアジア部門レーベルを統括するユ・ドンジュ代表が登壇しました。

ユ・ドンジュ代表は、HYBEがどのように世界的エンターテインメント企業へと成長したのか、そしてその背景にある戦略や哲学について語ってくれました。代表自身はモンゴルの砂漠、アフリカ・ケニア、ロシアなど多様な地域で生活し、アメリカで学んだ後、NGOや国連で勤務してきた経験を持ちます。現場で多くの韓国人と出会い、「社会問題をビジネスで解決したい」という思いから現代自動車勤務を経て起業。アパレル事業を成功させ、売却した後にHYBEに入ったと説明しました。
HYBE入社後、まず取り組んだのはアーティストの名前を徹底的に覚えることでした。音楽業界に詳しくなかったからこそ、既存の枠にとらわれない発想ができ、ビジネス領域を音楽以外へと大胆に広げる発想が生まれたと述べました。
HYBEが急成長した理由として、同社が「アーティスト育成」「アルバム制作」「テレビ出演などの露出戦略」に加え、プラットフォーム事業とテクノロジーを組み合わせた点を上げました。アーティストとファンが直接つながるプラットフォームの構築が、企業価値を大きく押し上げました。
また、HYBEはアーティストに関わるあらゆる体験を「ブランド化する」戦略を進めています。たとえばラスベガス公演では、ホテルのチェックイン時に楽曲が流れ、客室には専用タオルやメニューが設置され、周辺にはダンスを学べるプログラムも用意されるなど、街全体がアーティスト体験の一部となる仕掛けを構想しています。モビリティ企業と連携し、移動するタクシーにもコンテンツを搭載する取り組みも紹介されました。
さらに、K-POPの世界シェアがまだ4.5%しかないことを示し、「ただ世界で公演するだけでは拡大とは言えない。現地化とマルチレーベル戦略こそ未来への鍵だ」と強調しました。HYBEはすでに日本でJ-POPグループを育成し成功を収めており、アメリカでは「CAT’S EYE」がスポティファイで3300万リスナーを獲得し、ワールドツアーを展開しています。南米でも事業を開始し、今後も世界各地で新グループ育成を進める予定だと述べました。
最後に、HYBE社内の文化として「会議は30分。準備を徹底的にして、雑談はしない」という徹底した効率性が紹介され、将来的にはアーティストをテーマにした“シルク・ドゥ・ソレイユ型”常設ショーの構想にも触れ、講演を締めくくりました。
3人目の講演者は サムスンベンチャー投資 日本事務所所長のイ・ミングン氏。テーマは「相互理解によって飛躍する日韓スタートアップの生態系」です。

講演の冒頭でイ所長は、自身のキャリアについて紹介しました。これまで長くビジネスキャリアに悩み続け、投資やファンド運用の世界で道を模索してきたといいます。そうした中、2022年にはサムスンからオファーを受け、日本のベンチャーキャピタルランキングに韓国人として初めてランクインすることができました。
続いて、日本と韓国のベンチャーキャピタル業界で働く中で感じたことを共有しました。その前提として、まず「ベンチャー投資とは何か」を丁寧に説明してくれました。カカオやLINEのような巨大テック企業も、もとはベンチャー企業であり、成長には外部資金が欠かせません。しかし個人で集められる資金には限界があるため、VC(ベンチャーキャピタル)は投資ファンドを組成し、ハイリスク・ハイリターンの企業に資金を投じます。
次に、日本国内におけるサムスングループの体制にも触れました。最大の拠点は1000人規模の研究員を抱える「サムスン日本研究所」で、横浜と大阪にオフィスがあります。横浜研究所、みなとみらい研究所、そしてサムスン電気ジャパンなどがあります。
さらに、日本と韓国のスタートアップ環境の違いについても語られました。最大の違いは「海外進出への姿勢」です。日本は内需市場が大きいため、海外に出なくても企業が成長できる一方、韓国ではスタートアップの早期から海外展開を前提とした戦略が求められます。また、日本はGDP規模に比べてスタートアップ投資額が小さく、ユニコーン企業の誕生も遅れている現状があります。
文化的な違いにも触れ、「ハイコンテクスト文化」の日本では、責任回避のための慎重な手続きが多く、仕事と私生活(公私)の区別も韓国と大きく異なると述べました。韓国から日本に来た人が日本式の企業文化を理解できずに苦労するケースも多いといいます。
最後に紹介されたスライドでは、日韓の相互理解を深めるために重要な視点が示されました。「理解できない」と片付けるのではなく、「なぜそうなっているのか」「どう改善できるか」を考えることが、日本で暮らす人々の責任ではないかと語りました。日本のキーボードが使いにくい、新幹線の切符が2枚に分かれている――こうした小さな違和感こそ、改善につながるヒントになるといいます。
そして、その気づきを韓国に正確に伝えていくのは若い世代の役割であり、ベンチャーとはそもそも社会を革新する存在なのだから、ぜひ社会的イノベーションにも関心を持ってほしいと結びました。
どの登壇者も非常に熱量が高く、内容も濃く、準備も万全で、プレゼンテーションにも慣れていらっしゃいました。
そのおかげで、1時間半がまったく飽きることなく、あっという間に感じられました。
ここ最近、これほどまでに熱い講演を聴いたことはなかったように思います。
そして、韓国の圧倒的なパワーに触れ、日本はこのままで大丈夫だろうかと、思わず心配になるほどでした。。。。
質疑応答で印象的だったのは、ある大学生が投げかけた
「卒業したら日本で就職した方がいいのか、韓国で就職した方がいいのか」
という質問でした。
サムスンベンチャー投資のイ所長は、
「日韓に限らず、さまざまな国を経験した方がいいのではないか」と前置きしつつも、
「ただ、日本には“新卒”という制度があり、それを逃すとなかなか就職が厳しくなる」
と、現実的で率直なアドバイスをしてくれました。
一方、HYBEのユ代表は、
「HYBEジャパンに就職してください。今も500人ほど働いていますし、これからさらに増やしていきます」
と、夢のある前向きな回答で会場を沸かせました。
本当に、登壇者の皆さんから大きな元気をもらえた一日でした。
今回、参加者の中に日本人はほとんどいませんでしたが、質疑応答の中でサムスンベンチャー投資のイ所長が
「コリアンコミュニティの中に日本人が入ってもいいのではないか。次世代育成のためにも良いことだと思う」
と語ってくださったのがとても印象的でした。
韓国語ができれば、こうしたコミュニティにも自然と受け入れてもらえる—
その可能性を強く感じることができました。
